2010年10月05日

LTCM破綻(1998年)

この記事は「予備知識無しでもよく分かる経済解説」シリーズです。


1998年8月17日、ロシアは金利の支払いができずに、デフォルトを宣言しました。

「ロシアはIMFに救済されるからロシアはデフォルトしない」と予想して、大量のロシア国債を買っていたヘッジファンドはとてつもなく大きな損失を被りました。

ポンド危機や、アジア通貨危機では大儲けしてきたヘッジファンドでしたが、「IMFがロシアを見捨てる」ということまでは予想できなかったのです。

こうしてロシアはデフォルトし、ヘッジファンドは大変な損失を被りました。

そして、ノーベル経済学賞を受賞した2人のメンバーを持つ大手ヘッジファンド「LTCM」が破綻の危機を迎えました。
 LTCMとは

LTCMは、ノーベル経済学賞を受賞した、マイロン・ショールズ氏とロバート・マートン氏によって設立されたヘッジファンドです。

後に、元FRB副議長のデビッド・マリンズ氏もLTCMに加わりました。

ショールズ氏とマートン氏の二人は、「ブラックショールズ式」という、金融派生商品の価値を理論的に算出する数式を発明した功績によりノーベル経済学賞を受賞しました。

そして、世界中の金融商品の理論価格を正しく算出し、実際に市場で取引されている価格が理論価格よりも安ければその金融商品を買い、市場価格が理論価値よりも高ければ空売りする、という「ロング・ショート」という投資手法での運用を始めました。

1994年に運用を開始した時点で1000億円ものお金を投資家から集め、1998年までの4年間で投資によって4倍にまで増やしたといわれています。

【解説】
 LTCMについて
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LTCMは、ノーベル経済学賞受賞者のマイロン・ショールズ氏とロバート・マートン氏によって設立されたヘッジファンド。
市場価格が理論価格よりも安い金融商品を買い、市場価格が理論価格よりも高い金融商品を空売りする「ロング・ショート」戦略によって1984年の設立から1998年までは優れた運用成績を残した。
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金融市場のパニック

LTCMは、1998年の時点では、金利の高いイタリア国債やスペイン国債を買い、金利の低いアメリカ国債やドイツ国債を空売りしていました。

こうすることでイタリア国債やスペイン国債から高い金利を受け取り、空売りしているアメリカ国債やドイツ国債の低い金利を支払うことで、金利差を収入源としていたのです。
しかし、1998年にロシアがデフォルトすると、状況が一気に変わります。

金融市場が世界的なパニックを起こし、世界中の投資資金が、安全な国の安全な資産へシフトしたのです。

最初に資金流出が起きたのは新興国でした。

「ロシアの次にデフォルトする!」と心配されたブラジルやアルゼンチンの国債を持っていた投資家が、これらの国債を売却し、手に入れたブラジルやアルゼンチンの現金をアメリカドルへ交換し、アメリカ国債を買ったのです。

アメリカ国債は、「世界で最も安全な資産」と考えられていたのです。

ちなみに、現在でもアメリカ国債は「世界で最も安全な資産」と見なされています。
そのため、今でも金融市場でパニックが起きると、世界中の投資家はリスクの高い資産を売り、アメリカ国債を買います。こうすることで、投資家は自分のお金をアメリカ国債に非難させているのです。

【解説】
 アメリカ国債について
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アメリカ国債は、世界中の投資家から「世界で最も安全な資産」と評価されている。
そのため、金融市場に不安が広がると、世界の投資家はリスクの高い資産を売り、アメリカ国債を買って、自分のお金を避難させる。
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LTCMの誤算

ブラジルとアルゼンチンから投資家が逃げただけでは、事は治まりませんでした。

デフォルトの心配がそれほどなかったスペインやイタリアの国債からも、投資資金が逃げ始めたのです。

もちろん、避難先はアメリカ国債でした。

こうして、LTCMが保有していたスペイン国債やイタリア国債が、世界中の投資家が売却したために市場価値が暴落し、逆にLTCMが空売りしていたアメリカ国債が、世界中の投資家が買ったために値上がりしたのです。

LTCMは、「買い」と「空売り」の両方が裏目にでる格好となり、破綻寸前の大損失を抱え込んでしまいました。


機能不全となった「ブラック・ショールズ式」

LTCMの投資理論は、「金融商品の市場価値は、一時的に理論価格よりも高くなったり安くなったりすることがあっても、いずれ理論価格へ戻る」という前提に成り立っていました。

そして、市場価値が理論価格より安いイタリア国債やスペイン国債を買い、市場価値が理論価格よりも高いアメリカ国債を空売りし、それぞれの市場価格が理論価格へ戻るまで待っていたのです。

しかし実際には、イタリア国債とスペイン国債はさらに安くなり、アメリカ国債はさらに高くなってしまったのです。

なぜ、LTCMの理論通りにならなかったのでしょうか。LTCMの理論のどこに欠陥があったのでしょうか。

LTCMの理論は、「投資家は、安くなった資産を買い、高くなった資産を売るという、冷静かつ合理的な行動をとる」ということが前提になっていたのです。

しかし、ロシアのデフォルトによってパニック状態になった投資家は、売られて安くなったイタリア国債やスペイン国債を買うという合理的な投資行動をとるのではなく、「もっと安くなるかもしれない!」という不安感から、先を争うように売却したのです。

そして、投資資金が殺到しアメリカ国債が高すぎる水準まで値上がりした時でも、投資家は安全なアメリカ国債へ非難したい一心で、高い値段など気にせずアメリカ国債を買ったのです。

LTCMの投資理論には、「市場は常に理論的に正しく動くのではなく、時には感情的になり、間違った方向へ動くこともある」という観点が抜け落ちていたのです。


避けられた「LTCM発の世界恐慌」

LTCMの大損失が明るみにでると、アメリカ金融界は大パニックになりました。

LTCMの破綻は、LTCM一社だけの問題ではなかったのです。

LTCMは、顧客から出資してもらったお金だけを運用していたわけではなかったのです。そのほかにも、アメリカ等の銀行から1000億ドル(1ドル=100円換算で、約10兆円)ものお金を借りて運用することで、より大きな投資収益を得ていました。

また、アメリカ等の銀行や投資銀行は、LTCMに融資して利子を受け取るだけでは飽き足らず、LTCMのファンドに出資することで莫大な投資収益をうけとっていたのです。
LTCMが破綻すると、銀行がLTCMに融資したり出資していたりしているお金が、戻ってこなくなる可能性があります。そうすると、破綻する銀行が出てくる恐れがあります。銀行が破たんすれば、銀行から融資を受けている他の企業にも破綻する所が出る可能性があります。こうして、LTCM一社の破綻が、銀行や他の企業へと波及していき、「世界恐慌」にまで発展する恐れがあったのです。

もう一つ問題がありました。LTCMはデリバティブとよばれる金融取引契約をたくさんの銀行や投資銀行と結んでいたのです。その総額は1兆ドル(1ドル=100円とすると、100兆円!)とも言われています。LTCMが破綻すると、この1兆ドルの金融取引契約が全て消えてなくなることになります。

銀行はLTCMとのデリバティブ契約によっても、大規模な損失を被ってしまう可能性がありました。


こうした懸念から、LTCMの損失が世間におおやけになると、アメリカの金融機関の株が一斉に売られ、下落しました。株価の下落は金融機関銘柄から他の一般企業銘柄にも波及し、アメリカ株式相場は急落していきました。

FRBは1998年の9月、10月、11月と、3ヶ月連続で利下げを行いました。3ヶ月連続の利下げはとても異例なことです。投資家は、FRBがLTCM問題に対し迅速に対応したことで安心し、一旦は株式相場の下落は止まりました。

FRB(正確にはニューヨーク連邦準備銀行)は10行以上の大手銀行の幹部を一度に集め、LTCM問題を話し合いました。

このままLTCMを破綻させると、ここに集まっている銀行は皆大きな損失を被ってしまうのです。とはいえ、単独で緊急融資をしてLTCMを助けようと考える銀行はありませんでした。追加融資をした挙句に破綻してしまったら、損失が膨らむだけだからです。

そこで、大銀行が集まったこの会議の場で、「全部の銀行がLTCMに協調融資をして救済する」という約束が取り付けられたのです。

こうしてLTCMは融資を受けたことで破綻の危機を乗り越え、LTCM発の金融危機と世界恐慌は食い止められたのです。

このように、規模の大きな運用会社や金融機関は、他の金融機関とも密接につながっていて、一社の破綻は金融システム全体に深刻な影響を与えます。そのため、大手金融機関は簡単に潰してしまうわけにはいかないのです。このことを、「Too big to fail(大きすぎてつぶせない)」といいます。

【解説】
 LTCMの「Too big to fail(大きすぎてつぶせない)」問題について
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LTCMが破綻すると、LTCMとLTCMの顧客がお金を失うだけでなく、LTCMに融資したり出資したりしていた銀行も大きな損失を被り、金融危機に発展する恐れがあった。
LTCMの影響で銀行が破たんしたり経営が苦しくなると、銀行からお金を借りている他の企業にも影響が出て、世界恐慌になる可能性があった。
このように、大手ヘッジファンドや大手金融機関は他の金融機関と密接につながっていて、一社の破綻だけでは終わらず、金融システムや経済システム全体に問題が波及する。そのため大手金融機関を簡単に潰すことはできない。このことを「Too big to fail(大きすぎてつぶせない)」という。
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後日談

結局、LTCMは、1兆ドルのデリバティブ契約を徐々に清算した後、解体されてしまいました。

大銀行たちによる協調融資によっても生き返ることはできなかったのです。

何が何でも、LTCMが突然破綻して、金融システムが大混乱に陥ることだけを避け、LTCMが一つずつデリバティブ契約を解約していき、LTCMと金融システムのつなぎ目が一つ一つほどかれ、LTCMをつぶしても金融システムに影響は少ない状態になってから、LTCMは解体されました。


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posted by Tabbycat at 07:00 | Comment(0) | TrackBack(1) | 社会・経済を知る | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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