2013年02月25日

北杜夫「どくとるマンボウ航海記」


どくとるマンボウ航海記 (新潮文庫)

この本は、北杜夫氏が船医として調査船に乗り込み、4ヶ月にわたって世界を航海した記録です。読むと旅に出たくなることうけあいです。著者独特のユーモアがちりばめてあり、笑いながら読めます。
北杜夫氏の乗る船は、東南アジアへ南下し西へ向かいインドを越えて、運河から地中海へ入り、アフリカ大陸の西側を南下し日本へ帰ってきます。どの国でも港のそばには船乗りを客にした飲み屋があり、娼婦が立つ通りがあります。北杜夫氏は現地で意気投合した人たちと飲んだくれたり、ぼったくられたりしながら、次の出港までの時間が許す限り街を探索します。

文体はけっして技巧を凝らしているわけではないのですが、自然と読み手に風景を見せる、見事な文章です。いろんな国の港や酒場や路地裏の風景が自然と浮かび上がってきます。

北氏の好奇心の旺盛さは大したものです。珍しい食べ物や飲み物を飲み食いし、よくわからない建物があればまず入ってみる、という具合です。買った物の値段をいちいち記録しています。たばこがいくら、ビールがいくら、飲み屋の代金がいくら、タクシーがいくら、というのを読むと、その国の雰囲気まで感じられるから不思議です。

船医としての仕事のはなしも興味深いものがたくさんあります。船の中に医者は一人です。北氏の専門は精神科なのですが、外科手術もやらなければなりません。しかも波にゆれる船の中で。北氏は自らをズボラでいいかげんな男という風に描いていますが、医者として立派だったのだろうと思います。

本書はバカのふりをできる利口な人が書いた本です。さりげなく書かれている洞察に、著者の歴史や哲学にたいする博識さがにじみ出ています。これだけ知識をもったうえで外国をみて回れば、相当おもしろいことでしょう。同じものをみても、知識と感受性の豊富さによって、感じることは全然ちがうからです。世界のことをもっと知りたい、そして旅に出たいと思わせてくれる名著です。


どくとるマンボウ航海記 (新潮文庫)


posted by Tabbycat at 21:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・経済を知る | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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